漏えい事故事例
1.はじめに
液体の危険物である塗料、原料を取り扱う塗料製造業においては、工場等危険物施設において発生する漏えい事故は、火災につながり人命や財産に大きな被害を与えるばかりでなく、環境汚染など周囲に多大な影響を与えることになります。
漏えい事故の発生原因としては、人的要因、物的要因及びその他の要因に区別できます。
人的要因としては、確認不足、管理不足、気の緩み、知識不足、誤操作、連絡調整不足などがあげられます。スキル、経験などの「知識・能力」よりも「不注意」や「思い込み」などの当事者の「意識」に関連した要因が多いことから、これらに対してはヒューマンエラーを防止することが重要です。
物的要因としては、経年劣化、腐食、故障、破損、設計不良などがあげられます。これらに対しては、日常点検や定期点検を適正に行って施設の異常を早期に発見し、事故を未然に防止すること、又は事故の被害を最小限に留めることが重要です。
漏えい事故の原因は一つに限られず、背景に様々な要因が重なって事故へと至る場合も多いことから、ソフト、ハードの両面から事故防止対策に取り組む必要があり、日頃から漏えいの危険性や漏えい発生時の対応について確認するとともに、定期的に工場内の整理整頓や、設備の点検を行うことが求められます。
日本塗料工業会の安全環境委員会の安全基準検討ワーキングでは、各種安全環境教育資料の作成に取り組んでいます。この資料では、どのような場所、状況で漏えい事故が発生する可能性があるか、発生した際はどのような対処が必要かは勿論、その漏えいを未然に防ぐためにはどのような対策が有効であるかなどを、実際に発生した漏えい事故を参考に作成しました。
皆様には、ここに載せた資料を有効に活用していただき、漏えい事故防止に向けて各種対策を行っていただきますよう、お願い致します。
2.日本における2022年中の危険物施設における
危険物に係る漏えい事故の発生状況について(*)
(1) 漏えい事故の発生及び被害の状況
2022年中に危険物施設において発生した漏えい事故は415件、被害は負傷者18人、損害額5億6,638万円となっている。前年に比べ、漏えい事故の発生件数は7件減少し、死者は1人減少、負傷者は10人減少し、損害額は8,965万円増加している。(図1参照)
- 図1 危険物施設における漏えい事故発生件数と被害状況
これを製造所等の別にみると、漏えい事故の発生件数は、一般取扱所が121件で最も多く、次いで、屋外タンク貯蔵所が78件、給油取扱所が63件、移動タンク貯蔵所が55件の順となっている。
危険物施設1万施設当たりの漏えい事故の発生件数は、危険物施設全体では10.74件となっている。(表1参照)
- 表1 危険物施設における漏えい事故の概要(2021年)
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製造所等の別 発生件数 1万施設
当たりの
発生件数被害 死者数 負傷者数 損害額
(万円)1件当たりの
損害額(万円)製造所 46 92 0 2 20,958 456 貯蔵所 屋内貯蔵所 0 0 0 0 0 0 屋外タンク貯蔵所 78 13.62 0 3 19,521 250 屋内タンク貯蔵所 7 7.28 0 0 93 13 地下タンク貯蔵所 36 4.92 0 0 2,450 68 簡易タンク貯蔵所 0 0 0 0 0 0 移動タンク貯蔵所 55 8.54 0 2 6,461 117 屋外貯蔵所 0 0 0 0 0 0 小計 176 6.67 0 5 28,525 162 取扱所 給油取扱所 63 11.13 0 4 4,043 64 第1種販売取扱所 0 0 0 0 0 0 第2種販売取扱所 0 0 0 0 0 0 移動取扱所 9 87.12 0 0 376 42 一般取扱所 121 20.74 0 7 2,736 23 小計 193 16.43 0 11 7,155 37 合計/平均 415 10.74 0 18 56,638 136
危険物施設における漏えい事故の発生件数の推移を製造所等の別にみると、最近では、一般取扱所、屋外タンク貯蔵所、給油取扱所、移動タンク貯蔵所が上位を占めている。(図2参照)
- 図2 危険物施設における漏えい事故の危険性の推移
(2) 漏えいした危険物
2022年中に発生した危険物施設における漏えい事故で漏えいした危険物をみると、多くが液状である第4類の危険物であり、その事故件数は404件となっている。これを危険物の品名別にみると、第2石油類が147件で最も多く、次いで、第3石油類が125件、第1石油類が95件の順となっていて、漏えいした危険物のうち約97%が第4類危険物です。(図3参照)
- 図3 危険物施設における漏えいした危険物別件数の推移
(3) 漏えい事故の発生原因
危険物施設における漏えい事故の発生原因を、人的要因、物的要因及びその他の要因に区別してみると、物的要因が55%で最も高く、次いで、人的要因が33%、その他の要因(不明及び調査中を含む。)が3%となっている。個別にみると、腐食疲労等劣化によるものが30%で最も高く、次いで、操作確認不十分が14%、破損が11%、誤操作が7%、故障が各6%となっている。(図4、表2、表3参照)
- 図4 危険物施設における漏えい事故の発生要因(2021年)
- 表3 事故原因の区分:人的要因
原因の別 内容 操作確認不十分 操作項目、操作手順には問題ないが、
確認が不十分であったため、操作の内容等が不適切であった。誤操作 本来なされなければならない操作と異なる操作を実施した。 監視不十分 本来なされなければならない監視が不十分であった。 操作未実施 本来なされなければならない操作を行わなかった。 維持管理不十分 当該施設において本来なされなければならない維持管理が不十分であった。 - 表4 事故原因の区分:物的要因
原因の別 内容 腐食疲労等劣化 腐食や疲労などによる劣化が原因となり事故に至ったもの。
例:配管の腐食の進行により、漏えいした。破損 破損が原因となり事故に至ったもの。
例:フォークリフトで走行中に誤って配管に接触、破損し、漏えいした。故障 機器の故障が原因となり事故に至ったもの。
例:ノズルの満了停止装置が故障していたため装置が機能せず、吐出が止まらず漏えいした。施工不良 施工不良が原因となり事故に至った。
例:施工時のフランジボルト締め付け状態が不均一でボルトが緩み、漏えいした。設計不良 設計不良が原因となり事故に至った。
例:圧力逃し弁と逃がし管が設置されていなかった為、圧力の上昇により配管が破損し、漏えいした。
3.どのような個所で漏えい事故は発生するのか?